暇なときは・・・

『山之口獏全集第一巻全詩集』思潮社刊。
初版は1975年、僕が持っているのが1979年5刷と書いています。

平易な言葉で書かれているので、なにか日常の生活の中でおもわず口から出た言葉を書き写したような印象を受けるが、一篇の詩を作り上げるのに何十枚、何百枚という推敲を重ねていることは知られています。
だからと言って、平易な言葉を駆使しながら、どこかで読者の胸倉をぐいっとつかむようなそんな企みのある詩ではありません。
ぼくはこのように生きてきた。そんなことを語ってくれる詩のように思います。

現金

誰かが
女といふものは馬鹿であると言ひ振らしてゐたのである。
そんな馬鹿なことはないのである
ぼくは大反対である
諸手を挙げて反対である
居候なんかしてゐてもそればかりは大反対である
だから
女よ
だから女よ
こっそりこっちへ廻はっておいで
ぼくの女房になってはくれまいか。

*この詩を読んだのは、26歳くらいの自分だろう。「若しも女を掴んだら」とか「求婚の広告」の方が面白いのだけど、一度ブログで紹介しているので、こちらを載せました。


ひそかな対決

ぱあではないかとぼくのことを
こともあろうに精神科の
著名なある医学博士が言ったとか
たった一遍ぐらいの詩をつくるのに
100枚200枚だのと
原稿用紙を屑にして積み重ねる詩人なのでは
ぱあではないかと言ったとか
ある日ある所でその博士に
はじめてぼくがお目にかかったところ
お名前はかねがね
存じ上げていましたとかで
このごろどうです
詩はいかがですかと来たのだ
いかにもとぼけたことを言うもので
ぱあにしてはどこか
正気にでも見える詩人なのか
お目にかかったついでにひとつ
博士の診断を受けてみるかと
ぼくはおもわぬでもなかったのだが
お邪魔しましたと腰をあげたのだ

*山之口獏が一篇の詩を書きあげるのに、何十回何百回と推敲を重ねることは知られていました。ただ、出来上がった詩を読めば、そのような苦悩の痕が見えません。あまりに飄々としているからです。
ただ、初期詩篇を読めば、かれが自分の欲情や恋情をどのように表現すればよいか苦悩している姿が分かります。
「水をたたえてかくあれば ひとはしらじな火を噴きし山のあととも」と太宰治が歌った心情と共通するものがあるかも知れません。


座蒲団

土の上に床がある
床の上には畳がある
畳の上にあるのが座蒲団でその上にあるのが楽といふ
楽のうえにはなんにもないのであらうか
どうぞおしきなさいとすゝめられて
楽に座ったさびしさよ
土の世界をはるかにみおろしてゐるやうに
住み馴れぬ世界がさびしいよ

*これは代表作と言っても良い作品です。この時期の山之口獏はそれこそ泊まるところもなく放浪者のような生活をしていたそうです。たまたま友人宅に招かれたときの居心地の悪さを書いたと本人が語っています。



おねすとじょんだの
みさいるだのが
そこに寄って
宙に口を向けているのだ
極東に不安のつづいている限りを
そうしているのだ
とその飼い主は云うのだが
島はそれでどこもかしこも
金網の塀で区切られているのだ
人は鼻づらを金網にこすり
右に避けては
左に避け
金網に沿うて行っては
金網に沿って帰るのだ

*山之口獏は沖縄で生まれた。
「会話」という詩で、女にお国は?と聞かれ、ずっとむかふと答え、ずっとむかふと聞き返されて、今度は南方と答える。南方とは?と再度聞き返されると、亜熱帯と言うが、アネッタイ!と驚かれる。

亜熱帯なんだが、僕の女よ、目の前に見える亜熱帯が見えないのか!この僕のやうに、
 日本語の通じる日本人が、即ち亜熱帯に生れた僕らなんだと僕はおもふんだが、酋長だ
 の土人だの唐手だの泡盛だのゝ同義語でも眺めるかのやうに、世間の偏見達が眺めるあ
 の僕の国か!
赤道直下のあの近所

ビギンのメンバーも東京でバイトをしていた時に、外人のような扱いをされたと話していました。やはり独特の沖縄方言のイントネーションがあり、それが戦前ではもっとひどい差別になっていたのだと思います。もしかしたら、彼の詩作における推敲もそれと関係があるのかも知れません。

ちょっと脱線しますが、佐々木とか時々とかの「々」をワープロで出すときは、「のま」と打ったそうです。何故なら、「々」を分解すると「ノ」と「マ」になるからという理由だったとか。でも、今やパソコン時代ではそれは通用しません。
そこで、「おなじ」と打ち込むと、々、ゝ、〃などがでてきます。電子辞書で雑学のコーナーを見ていたらありました。

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