古代の馬は「イイ~ン」と啼く

『日本語の歴史』浅川哲也著、東京書籍刊より、抜粋・引用しています。

宮材引 泉之追馬喚犬二 立民乃 息時無 恋渡可聞        (巻十一・2645)

万葉集は、大和言葉を文字にした初めての書物で、漢字を一種ローマ字表記のアルファベッドのように使っています。万葉仮名というものです。ただ、同じ大和言葉を現すのにいくつもの漢字を使用しているので、それが古代における音韻の違いのせいか、筆者というか編者の好みなのかが本当のところはよく分かりません。

上記の歌も、平仮名交じりの歌に直すと以下のようになります。

宮材(みやぎ)引く 泉の杣(そま)に 立つ民の 休む時なく 恋ひ渡るかも

上記の歌では、追馬は<そ>、喚犬は<ま>と読ませています。
>これは古代日本人の「馬を追う声=そ」、「犬を呼ぶ声=ま」を表しているものと考えられます。

正直、本当かよというしかありません。
ただ、奈良時代の発音が現代とは違うとどこかで読んだことがあります。一番分かりやすいのはハ行で、パピプペポと発音していたということです。それが平安時代にはファフィフフェフォになり、江戸時代の中期頃には、現代のハ行の発音になったということです。

これも明らかであるとは言えないのですが、サ行もチャとかツォとか言う発音に近かったと言われています。
>それ故、馬追いの声も「ソ」ではなく、「チョ!チョ!」とか、或いは「ツォ!ツォ!」或いは「ソー!ソー!」だった可能性があります。その名残として、追馬が<そ>という言葉として万葉集で使われたのだと思います。

それなら、馬自身はなんと啼いていたのでしょうか。

垂乳根之 母我養蚕乃 眉隠 馬声蜂音石花蜘蛛荒鹿 異母二不相而   (巻十二・2991)

上記の歌を平仮名文字交じりに直してみると以下のようになります。

たらちねの 母が飼う蚕の 繭隠(こも)り いぶせくもあるか 妹に逢はずして

なんか暴走族の言葉を解読している気分になります。万葉集も暴走族も漢字の使い方は同じなんだと改めて感心しました。
ここで一番分かりにくいのは<い><ぶ>の部分です。
<せくもあるか>の部分も最初の<せ>が<石花>とイコールなのはよく分かりませんが、歌の流れとしては「いぶせくも」と続いてるのでしょう。ただ、「くも」が蜘蛛となっているとなんだかなという気分になります。

馬声=<い>と表し、蜂音=<ぶ>と表しているのを見ると、蜂音が「ブーン」なのは古代日本人も同じ感覚だったのでしょうが、馬の声が「イイ~ン」と聞こえるかというと首肯できません。「ヒヒ~ン」の母音を象徴していると言えばいえますが、これも奈良時代のハ行の発音と関係していると考えれば別です。
パ行なら、「ピピ~ン」となります。ファ行なら、「フィフィ~ン」となります。どちらも表現として定着しにくいものです。それ故、「い」が採用されたのではと推測できそうです。

ちなみに、「馬のいななき」の「いななく」を辞典で調べると、「い」は馬の鳴き声とあり、いななくことを「いばゆ」とも言うそうです。
英語では、neighと書きます。

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