鶴見俊輔を信じる理由

「ドイツ降伏の一カ月前の4月12日にロズヴェルト(ルーズベルト)は急死して、大統領はトルーマンに代わっている。当時の大統領直属の統合参謀本部幕僚長は海軍大将のリーハイで、彼の手許には日本各地を航空撮影した写真がつぎつぎと送られてきていて、それをも見ると日本には連合艦隊が存在しない、それは一目瞭然なんです。もちろん、大統領のトルーマンもそれを知っている。ところが、日本人のほうはそんなこと知らされていないから、いつ連合艦隊が出て来るのかと期待してまっているわけですよ。そればかりでなく、大きな兵器を補充する兵器工場はみんな爆撃でやられてしまっていることもアメリカは知っている。もう日本には戦うすべがないんです。
 日本にはすでに戦う力がないと知ったリーハイは、原爆を落とす必要がないといったんです。ところが、トルーマンはそれを押し切って落とした。これはひじょうに重大な事実です。知っていて、落としたわけですから。その後、アメリカ政府が公式に発表したのは、アメリカ将兵の犠牲を少なくするためにやむなく原爆を落としたというものだけれど、それはうそです。あれから六十年以上たつ今日においても、うそであることを公表できないでいる。
 もうひとつの問題は、なぜ二つの原爆を落としたのか。このことについては、C・P・スノウの”The New Men”『新しい人間たち』の小説が出てきます。小説の中で、イギリス人の大変に優秀な若い物理学者が、キャヴェンデッシュ研究所で核開発を進めていて、その途中に事故で被曝し白血病になってしまう。彼は研究者だけれでも、原爆投下には一貫して反対していて、入院中に原爆のニュースを聞くんです。一つめが落とされ、二つめが落とされたとき、「最初の原爆を弁護しようとする奴がいたら、その話には耳をかしたかもしれない。しかしこの二度目の爆弾を敢えて弁護しようとする者がいるとしたら、そんな奴は有無を言わさずに地獄へたたきこんでやりたいね」と怒り狂う場面が出てくる。なぜ二つめを落としたのか。それは広島に落としたのが濃縮ウラン型で、長崎の方はプルトニウム型という構造の違う爆弾で、その効果をしりたかったんですよ。これはまさにハイド氏のやることでしょう。この二つめに注目した人は少ない。落とされた側にも注目した人が多くはいなかった。それを強烈に突きつけたのが、二重被爆者の「もてあそばれたような気がするな」という言葉なんですよ。」

『言い残しておくこと』鶴見俊輔著、作品社刊より。

これほど単純に、簡単明瞭に原爆投下を語った文章に今まで出会わなかった。
終戦後のポツダム宣言が「無条件降伏」なのか、条件付き「無条件降伏」なのかという、そこにある現実を見ようとしないかの議論が提出されもしたが、真っ直ぐに原爆投下の問題を追及した文章はあまりない。

そういう意味では、僕にとっては貴重なものだ。

また、8月15日の玉音放送についても書いています。

>8月6日の広島、9日の長崎の原爆のことは新聞で知っていたはずなんだけれど、なぜかそれはあまり印象に残っていない。むしろ、八月十五日の天皇のラジオ放送の印象の方が強かった。前日におやじから玉音放送があるということを聞いてたので、私は、壊れていたラジオを熱海の駅前まで直しに行ったんです。帰ってから、その日ひとりで、聞こえるようになったラジオに対坐した。すると放送が始まる。そのなかに「敵は新たに残虐なる爆弾を使用して頻りに無辜を殺傷し惨害の及ぶ所真に測るべからざるに至る・・・」

もっと直截にいえば、この言葉に嫌な感じを受けた。これは困る、さかのぼって南京虐殺までをも正当化するようないやな演説だと感じた。

鶴見俊輔氏はマスクス主義者でもなければ共産党員でもありません。後藤新平を祖父にもち、父親は国会議員だった。そのような家に育ったおかげで政治状況というより、政治家の志向が肌感覚で分かるのです。
太平洋戦争の直前、彼は留学生としてアメリカにいて、周囲のインテリたちがアメリカという巨大な経済大国と資源小国の日本が無謀な戦争をする訳がないという議論をする中で、ただ一人、日本は戦争を始めるだろうと確信していました。
それは青年鶴見俊輔が戦力的な視点を持っていたからではなく、日本の政治家の思考及び志向が肌感覚で分かっていたからです。こんなバカ戦争だが、彼らは止めることをしないだろうと。
ただ、彼の予測で食い違ったのは、数カ月で決着がつくだろうと思っていた戦争が数年も続いたことです。

日本の首相が交代する時、誰かがこの原爆のことをアメリカに言わないのかといつも思っていましたが、それは未来永劫ないでしょうね。まあ、山本太郎が首相になったら、言うかも知れませんが。

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